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医院開業〜メディカルコラム〜

建築家
永井 修文

「人が自然な形で健康で快適に過ごす空間」を主題とした環境重視の建築設計に定評がある。
メディックス都市開発顧問


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普段着の医療空間


普段着の医療空間
〜ひとりの患者として〜


最近、CTのデータ−が必要なために大病院に出かけました。2年ほど前に建替えられ、受付から診療費の支払いまでオンライン化され、ATMがいたるところに設置されています。受診科別の窓口ではディスプレイの画面に顔を落しながら、患者の情報の確認を済ませるとマニュアル化されたような丁寧で、明るい声で私の名前が告げられました。人工的な明るさの待合から診察室に入るとやさしいそうなナース(最近は看護師とか言うがあえて)の声かけにホッとしたものを感じました。


建替えられてから初めて訪ねたその病院は、至るところに設置された最新の医療設備が医療の最先端を仕切っている感じがしました。人工的な検査さえも慣れきった検査であれば、楽しそうに、それで何がしかの健康の保証を手に入れたかのような気もしました。無機的な空間は、より客観的な雰囲気を作っていて、日常の疑問さえも打ち消してしまう気がします。それ以上に、その空間の緊張した空気からは自身の内からの感覚のざわめきを語れないと感じ、もっと自然に普段着の感じで、リラックッスして話をしたいと思いました。また、最先端のデータから読み取れるものと、本来の健康の状態を考えることへのつながりを観察する余裕が見えないように思えました。医療機器の潤滑油のような臭いと呼吸をもためらってしまいそうな待合の中で、現在の医療空間の実際を見た気がしたのは私だけだったのでしょうか。


建築の空間は第3の皮膚とも呼ばれます。
これまで私は、人が素肌感覚でいられる場所をつくりたいと思ってきました。そうした場所が家庭の中からも消え始めてから、いろんな問題が社会化してきました。自然の力に生かされた建築の空間の実現が難しいことは事実です。ある意味では建築の空間そのものが反自然的なものだからともいえますが。それはちょうど、曲がって、形の悪いきゅうりや虫食いのキャベツを嫌がりながら、オーガニックなものを探しているのと同じことのように見えます。建築の話からすれば、コンクリートで地面を覆いながら、少しでも自然にやさしい防蟻剤に頼ろうとする態度と同じですよね。
自然に開く建築を考えたいと思っていますが、それには多様なものを受け入れる覚悟がいります。
基本は自然の多様なシステムに目をそむけた志向に問題があるのですが、利便性を追求すれば仕方ないことです。それで獲得したものはいろいろあります。たとえば身の回りの生活を支える洗濯機、レンジ、冷蔵庫、TV、電話から車といった生活の必需品と呼んでいるものがなかったらと考えると、これはかなりの面倒なことになります。ただ、いずれのものも50年まえにはなかったか、あったとしても生活のあり方まで変えるほどはなかったものばかりです。こうした地点まで帰らないと見えない状況にあるのが現代です。


医療の建築空間でも同じことのように思います。F・ナイチンゲールの「看護の覚え書」の中にある医療空間の基本的な五つの要点、1.清浄な空気 2.清浄な水 3.効果的な排水 4.清潔 5.陽光 が実現されている医療空間はどれくらいあるのでしょうか。


やっと5番目の陽光ぐらいではないかと思っています。その陽光も実際は長時間人工照明の室内空間での作業が大半なのではないでしょうか。しかも管理された湿度、温度の室内環境は機械設備の賜物です。知らぬ間のストレスはそうした環境の影響を無視できない、命の警告としてあらわれているように思えます。そうした医療空間で従事されている医師、スタッフに要求される緊張感は一方では、患者の心にその有り様が映ります。日常の医療活動の中にこぼれたやさしさが実は患者の気持ちに一番の治療であることは、いろんな場面の、いろんな出来事の中で最後の微笑として語りつづけられてきました。
このワンシーンのために積み重ねられたものが真実のあり様に思えます。こうした現場に立会える建築の空間をつくりたいと思います。目立たないかもしれませんが普段着の医療空間を積極的に考えたいと思います。
自然のもつ癒しの力が多様性の持つ豊かさの結果であるように、医療の現場にも多面的な空間を支える有機的な視点を持ち込む必要性を今回の受診から更めて感じました。